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千葉地方裁判所 昭和46年(ワ)86号 判決

原告 戸村一作

右訴訟代理人弁護士 小長井良浩

同 藤田一伯

同 葉山岳夫

同 近藤勝

同 内野経一郎

同 安武幹雄

同 三上宏明

同 菅野泰

同 大川宏

同 野島信正

同 中根洋一

同 坂入高雄

同 金田英一

同 長谷川幸雄

被告 千葉県

右代表者知事 川上紀一

右訴訟代理人弁護士 石川泰三

同 大矢勝美

同 小室恒

同 岡田暢雄

右指定代理人事務史員 大塚定寿

同 能城静夫

主文

一、被告は原告に対し、金一一七万三、三六一円およびこれに対する昭和四三年二月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分してその二を被告の負担とし、その余の部分を原告の負担とする。

四、この判決の第一項は仮に執行することができる。

五、被告が金一一七万三、三六一円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1、被告は原告に対し、金三四〇万円およびこれに対する昭和四三年二月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1、当事者

(一) 原告は、昭和四一年夏以降、新東京国際空港(以下成田空港という)の建設に反対する三里塚・芝山連合空港反対同盟(以下反対同盟という)の委員長の地位にあるものであり、住所地において戸村農機具店なる名称の農機具販売店を経営している者である。

(二) 被告は、普通地方公共団体であり、千葉県警察を設置し、これを管理運営している者である。

2、警察機動隊員の加害行為

(一) 三里塚空港粉砕、砂川基地拡張阻止決起大会(以下集会という)は、反対同盟らの主催で、昭和四三年二月二六日、成田市市営グラウンドにおいて、原告ら反対同盟員約七〇〇名、学生ら約一、〇〇〇名の参加のもとに開催されたが、右当日、千葉県警察機動隊所属の多数の警察官(以下機動隊員という)は、同県警察本部長畠中達夫の指揮下で、右集会の警備に従事していた。

(二) 右同日は、警察の過剰警備により学生デモ隊と警察機動隊との間に衝突が繰り返されていたが、同日午後三時三〇分ころから始まった衝突が一応収まった午後四時ころ、デモ隊の一部の学生を追跡してきた機動隊員七名ぐらいが、成田市成田七五八番地先県道(以下本件現場という)上において、転倒して逃げ遅れた無防備の学生一名を警棒で乱打しようとしたため、偶々本件現場附近に居合せた原告は、右転倒した学生に両手を広げて覆いかぶさるようにして同人を庇って右暴行を制止しようとした。なお原告の行為により難を逃れた右学生は現場から逃走した。

(三) すると右機動隊員らは、無抵抗な老人ともいうべき、原告を、あるいは反対同盟の委員長と知りながら、突き飛ばしたうえ、原告のかぶっていたヘルメットを取払い、現場に四つ這いにさせてこれを取囲み、警棒で原告の頭部、腹部等全身を殴打したり、蹴りつける等の暴行を加えた。

(四) 原告は、右暴行により頭部、左前腕部各挫創、右側頭部(七針縫合)、左前胸部、左側腹部、右膝部各打撲等の傷害を受け、同年二月二六日から同年三月二五日までは入院加療を、その後同年一〇月末までは自宅にて静養加療を要した。

3、被告の責任

公権力の行使に当たる公務員である警察機動隊員らの原告に対する前記行為は、その職務を行なうにつき故意になされた違法なものであるから、被告は地方公共団体として、右違法行為によって原告の被った損害を賠償する国家賠償法上の責任がある。

4、原告の損害

(一) 財産的損害    金一〇〇万円

(1) 入院治療費関係  一二万三、二〇〇円

原告は、昭和四二年二月二六日から同年三月二五日まで二八日間成田日赤病院に入院し、その後も同年一〇月末まで後遺障害の治療のため月二回程度の割合で合計一四回同病院へ通院した。右費用は左のとおりである。

(イ) 入通院費用     金七万円

(ロ) 入院付添費用  金二万八、〇〇〇円(一日一、〇〇〇円)

(ハ) 入院雑費    金八、四〇〇円(一日三〇〇円)

(ニ) 通院タクシー費  金一万六、八〇〇円(一回一、二〇〇円)

(2) 逸失利益 金九三万三、五九〇円

原告の経営にかかる前記戸村農機具店は、原告の前記受傷による療養生活のため、昭和四三年には、前年度よりも売上金額が減少した。当時の日本経済は、高度成長期にあり、昭和四三年度は、前年に比して小売業販売額指数において約一二%の伸びを示していた。従って仮りに原告が本件傷害を受けることなく正常に同店の営業活動に従事していれば、少なくとも昭和四三年には、右と同比率の売上の増加を期待できたものである。また原告の売上額に対する平均利益率は二六パーセントである。よって原告の本件受傷によって被った得べかりし利益の喪失は、原告が同店の正常な営業活動を回復したとしても、少なくとも三年間は発生し続けたと考えられるので、その額は左のとおりとなる。

(イ) 昭和四二年 総売上額  七〇六万七、五五五円

(ロ) 成長率  一一二%

(ハ) 四三年 総売上額  六七一万八、七五一円

(ニ) 利益率  二六%

(ホ) 損害発生期間  三年

よって逸失利益総額は((イ)×(ロ)-(ハ))×(ニ)×(ホ)であって、金九三万三、五九〇円となる。

(3) 家内労働の強化による損害  金二四万円

原告経営の店舗は、原告一人で経営しているものではなく、原告の妻子らの共働によって維持、発展を遂げてきたものであるが、原告の前記療養生活中も、特に取扱品目を減少したり経営の規模を縮小したりすることなく、概ね従前の営業活動を維持しようとした。そのため原告一家の家内労働の負担は著しく加重され、妻子や従業員らの献身的な努力によって、前記程度の売上減に止めることができたものである。従ってこれら原告の妻子の家内労働強化による負担も本件不法行為による原告側の損害というべく、右金額は一ヶ月二万円が相当である。しかして、右労働強化の負担は、原告が正常な営業活動に従事することが可能になるまで約一年間継続したので、右損害額は金二四万円と計上される。

原告は以上の財産的損害額合計金一二九万六、七九〇円のうち、本訴においては金一〇〇万円を請求する。

(二) 精神的損害  金二〇〇万円

原告は、機動隊員の警察官職務執行法の規定を著しく逸脱した前記態様による無法な暴力によって傷害を負わされたことにより、言い知れぬ屈辱を被った。それに加え、右傷害によって反対同盟委員長の職務を行なえない焦燥感並びに農機具商としての家業を行なえないことに対する心労、及び頭部等を強打されたことによる後遺症の不安等、その精神的打撃は筆舌につくし難いものがあるので、これを慰謝すべき金額は、金二〇〇万円を下らないものである。

(三) 弁護士費用  金四〇万円

原告は、弁護士である原告訴訟代理人らに本件訴の提起追行を委任し、その報酬として金四〇万円の支払いを約した。

5、よって原告は被告に対し、国家賠償法一条一項の損害賠償請求権に基づき、以上の合計金三四〇万円とこれに対する不法行為の日である昭和四三年二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告の請求原因に対する認否並びに反論

1、請求原因1の(一)、(二)、同2の(一)の各事実は認める。同2の(二)、(三)の各事実は否認し、同五の主張は争い、その余の請求原因事実はすべて不知。

2、前記昭和四三年二月二六日の集会に参加したいわゆる中核派を中心とする約一、〇〇〇名の学生ら集団は、空港公団分室の実力封鎖を標ぼうし、右同日、同分室への突入を図り、警備中の警察部隊に対し、投石したり、角材で襲撃したり、はたまた劇薬をあびせる等激しい暴力行為をなした。

3、警察は、右学生らが原告の統制のもとに整然と集会及びデモ行進を行なうものと信じて、極力負傷者を出さないことを基本方針として警備にあたったが、中核派らの攻撃は熾烈をきわめた。このため警備にあたった警察官は、度々、その生命、身体の安全を保持することさえ困難な状況に陥った。その結果警察部隊からは、右当日、七〇〇名を超える重軽傷者を出すに至った。

4、原告は、この集会の主催者でありながら、共闘している中核派集団らが違法な暴力行為を敢行しているのにこれを制止する等主催者としての当然の措置を何ら採らず、あえて自ら角材を所持して中核派集団らと行動を共にし警察部隊に投石する等の違法行為を共同して行なった。

5、原告主張の負傷は、このような右当日の状況下に何らかの原因で発生したものと推察される。

6、また、原告主張の療養中、昭和四三年三月一三日以降のそれは、糖尿病に基づくものであり、かつ、本件受傷と右糖尿病の発症との因果関係は存しない。

第三、証拠《省略》

理由

(責任原因)

一、警察機動隊員の加害行為とその状況

請求原因1の(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

1、警備当局は、当初集会に参加する三派系全学連中核派所属の学生らが新東京空港公団成田分室の実力封鎖を企だてているとの情報を入手はしていたが、一方、原告より成田警察署長に対して、集会は、反対同盟が中心となって運営し、右学生らもその統制に服して集会に参加ないしデモ行進を行なうとの申し入れがなされていたので、右集会の警備に関しては、警察機動隊を前面に出して阻止線を設ける等の刺激的な方法を極力避ける方針をたてたうえ、できるだけ負傷者を出さないため、特に警棒の使用についてはこれをさしひかえるよう指示していた。

2、これに対し、集会に参加する学生らの一部は、数日前より現地である成田へ集まり、反対同盟員宅等に宿泊しながら、反対同盟副委員長宅庭先等で、長さ約一・五メートルの角材に三〇センチメートル四方のベニヤ板を釘で打ちつけた乱闘に使用できるプラカードを四〇〇ないし五〇〇本製作する等して、当初から警察機動隊との衝突に備えていた。

3、集会は、昭和四三年二月二六日午後一時二〇分ころ、成田市営グラウンドにおいて開始され、同日二時四〇分ころには、右集会参加者中原告ら反対同盟員と学生らとで編成された約五〇名の抗議団が、空港公団分室へ空港反対の決議事項の伝達のため面会におもむいたが、これを拒否され、成田市役所庁舎の前庭で警察機動隊に行手を阻まれた。かくして、右抗議行動が不調に終ったことが集会に報告された後、集会はデモ行進に移り、反対同盟員のほとんどは、屈出どおりのデモ行進コースを進んだが、学生らの一部は、同日午後三時三〇分ころ、突如公団分室への突入を図り、市営グラウンドから市役所前三叉路へと殺倒し、これを阻止しようとした警察機動隊の一部隊と乱闘となった。しかし前記警備方針から事前に充分な阻止線を形成していなかった警察機動隊は不意をつかれ、学生らの投石や、旗竿、角材などによる襲撃により、当初は一方的に守勢にたたされ、負傷者が続出した。しかも同所へ応援に駆けつけようとした警察機動隊の一部隊も、他の学生らの一団から、投石、角材等で襲撃を受けたばかりでなく、劇薬である農薬のクロロピクリンの入ったビンを投げつけられる等して、瀕死の重傷者を含む負傷者を多数出す有様であった。しかして、市役所前三叉路附近一帯は、警察機動隊員と学生らとが、警棒と投石、角材とで相互にわたり合いながら一進一退を繰り返す混乱状態に陥った。

そこで警備当局は、右のような混乱状態の収束を図るべく、同日三時五〇分ころ、学生らの一斉検挙を指示して警察機動隊を攻勢に移らせ、検挙活動をなすと共に、乱闘に加わっていた学生らや、同学生らに前記市営グラウンドから投石用の石塊を運んでいた反対同盟員らを実力で解散せしめ、ようやく同日四時四〇分ころ、右混乱を収束せしめた。

しかし右衝突により、警察部隊は、合計三六六名余りの負傷者を出し、また市民、報道関係者、学生らにも多数の負傷者を出す結果となってしまった。

4、一方、原告においては、反対同盟員らの前記デモ行進には加わらず、同日三時三〇分ころより、市役所前三叉路附近において、学生らと警察機動隊員の前記乱闘を目撃していた。そのうちに同日午後四時ころ、市役所前三叉路近くの成田市成田七五八番地先県道上の本件現場において警察機動隊が攻勢に出て、学生らが市営グラウンド方面へ後退する際、その中の一人がつまづいて転倒したため、原告は、これを庇う目的で同学生を追跡してきた七、八名の警察機動隊員の前に割り込み、同学生に覆いかぶさったところ、同学生は、その場から逃走した。すると、右機動隊員らは、その場において、ちようど四つん這いの姿勢となっていた無抵抗の原告に対し、これを半ば取り囲むようにして、ヘルメットの脱げ落ちた同人の頭部、胸部等を警棒で殴打したり、足蹴にする等の暴行を加えて、後記認定の傷害を与えた。

二、原告の負傷状況

《証拠省略》によれば、原告は、前記暴行により頭部、左前腕部各挫創、左側頭部、右前胸部、左前腕部、左側腹部、右膝部各打撲の各傷害を受け、前同日、直ちに成田日赤病院外科へ入院したこと、そして右傷害は、当初三週間程度の休養が必要である旨の診断であったが、尿所見に少量の血液が認められたため精密検査を行なったところ、糖尿が検出されたことにより、原告は、同病院内科への転科を余儀なくされて、同年三月二五日まで入院加療を受けて退院したこと、しかしその後も全身異和、左側耳鳴り等の症状が残ったため、同年一〇月末まで月一乃至二回程度同病院内科へ通院したこと、また右通院を止めた後も約一ヶ年間は、全身に倦怠感を、夜中にはしばしば激しい腹痛を感じていたことが認められる。

しかし《証拠省略》によれば、原告は、明治四二年生れの高令者であること、退院後には、前記全身異和、耳鳴り等の治療に加え、胆石と糖尿病の治療のためにも通院していたものであることが認められるところ、本件受傷と胆石ないし糖尿病との間に相当因果関係がある旨の肯定的な証拠は見当らない(なお糖尿病との因果関係に関する証人戸村澄江の証言および原告本人尋問の結果(一、二回)は、《証拠省略》にてらし、いまだ因果関係を肯定する証拠とはなし難い)のでこのような事実関係の下においては、前記暴行傷害による加療の必要性は、おそくとも昭和四三年一〇月末日の右通院の中止をもって消滅したものと解するのが相当である。

三、被告の責任

被告千葉県は普通地方公共団体であって、千葉県警察を設置しこれを管理運営していることは当事者間に争いがなく、同県警所属の警察機動隊員が同県の公権力の行使に当る公務員であること、前記警備活動がその職務に該当することは明らかである。

しかして、原告に対する暴行傷害が、前認定のとおり警察機動隊と学生らとの乱闘状態下において惹起されたものであり、原告の行為により、結果として機動隊員らが逮捕しようとしていた被疑者が一人逃走したとしても、またその他前認定の諸般の事情を考慮したとしても、前記機動隊員らの原告に対する加害行為は、警察官職務執行法七条但書で許容された場合に該らないことが明らかである。

してみれば、被告は原告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、前記機動隊員が原告に与えた損害の賠償をする義務がある。

(損害)

一、財産的損害

1、入院治療費関係

原告は前記受傷により、昭和四三年二月二六日から同年三月二五日までの二八日間成田日赤病院に入院し、退院後は、同年一〇月末日までの七ヶ月間通院していたことは前認定のとおりであり、《証拠省略》によれば、原告は右入・通院の治療費として少なくとも金七万円を成田日赤病院に対して支払ったこと、右入院期間中少なくとも一日三〇〇円相当で合計金八四〇〇円余りを入院雑費として支出したこと、また右通院には、原告居宅から同病院までタクシーを利用せざるを得なかったため、右七ヶ月間に月平均一・五回合計一〇回の通院で、合計一万二〇〇〇円の通院費用を支出したことが窺われると共に、右各支出(合計九万〇四〇〇円)は、前記受傷の程度に徴し、相当なものであったことが認められるが、右各支出費目については、他に右金額を超える金員を支出したことを認めるに足る証拠はない。

なお原告は、右入院につき付添費用として金二万八〇〇〇円を支出した旨主張し、《証拠省略》によれば、原告の右入院期間中は、原告の妻らが付添っていたこと、付添人に対し少なくとも一日金一〇〇〇円の付添費用を支出したことが認められるが、しかし、《証拠省略》によれば、原告は右入院当初から見舞客と支障なく応接しうる程度の受傷状況であり、また同年三月一〇日には、同病院を脱け出して、三里塚で開催された空港反対集会に参加したことが認められるのであるから、以上認定の事実によれば、原告の右入院については、最大限当初一週間程度の入院付添が必要であったことが認められるが、他にこれを超える期間付添が必要であったことを認めるに足る証拠はないので、原告の支出した付添費用のうち金七〇〇〇円が、本件負傷と相当因果関係内にある損害であると解するのが相当である。

2、逸失利益

原告は、住所地において戸村農機具店を営んでいることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右農機具店は、原告の前記受傷の前後を通じ、原告の妻を帳簿付等に手伝わせ、原告の養女を家族専従者として店頭販売、集金等の業務に使用し、訴外石井茂を外交、修理等を担当させる雇人として使用して、原告本人が中心となって経営していた形態の店であったこと、原告は、前記入院期間中はもとより、退院後も半年間程は、本件傷害から右営業活動には、充分に従事しえなかったこと、原告は、右農機具店の経営により、昭和四二年中には金六三万四九九四円の収入を得ていたが、右傷害を受けた昭和四三年には、同店の経営によって金五〇万九〇三三円の収入を得たにとどまることが認められる。

従って原告は、少なくとも本件傷害によって昭和四二年と同四三年の収入の差である金一二万五九六一円の得べかりし利益を失ったことが認められるが、他にこれを超える得べかりし利益を失ったことを肯認するに足る証拠はない。

なお原告は、昭和四三年度は昭和四二年度に比して、小売業販売指数が全国平均で一二%余り増加しているのであるから、原告は、右農機具店の売上げにおいて、昭和四三年から最低三年間、昭和四三年の総売上げ額の一二%増の売上げを失ったところ、原告の平均利益率は売上げの二六%であるから原告は本件受傷により、合計金九三万三五九〇円の得べかりし利益を失った旨主張するところ、原告本人の供述中には、これに副うがごとき部分も存するが、《証拠省略》によれば、右農機具店の売上げにおいて原告の得る利益は一〇%以下にすぎないことが認められることに比して、右供述は措信しえず、他に右農機具店の売上げが右全国小売業販売指数と同程度に増加するであろうこと等の右主張を認めるに足る証拠は存しない。

3、またさらに原告は、いわゆる家内労働の強化による損害として金二四万円の損害賠償をも求める旨主張するが、原告に対して、前記逸失利益のほかにさらにこのような損害が発生した事実を肯認するに足りる証拠はない。

二、精神的損害

原告が受けた傷害の程度並びにその治療期間等は前認定のとおりであり、《証拠省略》によれば、原告は、前記農機具店の経営に加え、反対同盟委員長としての活動並びに彫刻、著作等の芸術活動を広く行なっている者であるところ、右受傷により右各活動が相当期間著しく阻害されたことが認められるが、前認定における、原告が、警察機動隊員らに暴行傷害を受けるに至った現場の状況及び原告が危険な右現場に自ら飛び出したという事情並びに警察機動隊においても、相当の実力を行使して、学生らを右現場附近から排除する必要が存した等の以上認定の各事実を総合勘案すれば、原告の本件暴行傷害を受けたことによる精神的苦痛を慰謝すべき金員としては、金八〇万円が相当であると認める。

三、弁護士費用

《証拠省略》によれば、原告は、弁護士である原告代理人らに本訴の提起並びにその追行を委任し、弁護士費用として金四〇万円を支払うことを約したことを認められるが、本件事案についての立証の困難性、審理経過並びに認容額等に照らすとき、本件による損害として、原告が被告に対し請求しうる弁護士費用の額は、金一五万円が相当であると解される。

(結び)

従って以上判示によれば、原告の被告に対する本訴請求は、金一一七万三三六一円とこれに対する不法行為の日である昭和四三年二月二六日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行ならびにその免脱の宣言については、同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小木曽競 裁判官 鈴木経夫 廣田民生)

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